秘密
SIDE.今野珠子
悠平や好美の居る場から走り出し、数分で離れてやっと珠子は息をすることができたような気がしていた。
「はあっ、どうして……」
珠子は抱えた二つの弁当をどうすれば良いか解らなくなった。
作ってくれと言ったのは門田君なのに、雨宮先生からのお弁当。そりゃあ好きなんだから受け取るのは当たり前だよね。
珠子は胸が痛いような気がした。
門田君は追いかけてこようともしない。
そんなこと、当たり前だって解っているのにどうしてこんなに苦しいの。
「……」
少しだけ目に涙が滲み、空を仰いで溢れ落ちそうになるのを必死にまぶたで受ける。
「美百合の所にも今更行けないし……」
門田君と雨宮先生との間に関係があるのは絶対に秘密。
そうして珠子はあの非常階段まで二つの弁当を抱えて行った。
今の珠子の食べ方は、きっともぐもぐという効果音が似つかわしい。
結局涙が止まらず、拭うこともなく弁当の一つを開けて珠子は食べ始めた。
「っ……おいし」
口に出して言うと尚更哀しくなった。
おかしい。
どうしてあたしが泣かなくちゃならないのよ。あたしは別に、門田君を好きになって付き合っているわけではないのに。
こんなのおかしい。
珠子は甘いはずの卵焼きを口に放った。