宛て先のない、
その、長尾さんの双子の姉とやらが、和則が指差したあの、やかましい女子である。ちなみにお名前は長尾理宇。和則が『あっちの長尾』って言ったのはそういうことなのだ。きつい性格の姉と、妹の、俺が失恋した長尾さんの方は、おとなしいけど優しい性格…それはもう顔が似てなかったら、本当に姉妹かどうか疑うくらい正反対だ。
―それに俺は知ってるんだ。長尾さんの笑顔は誰よりも可愛いってこと。
「おい、鼻の下伸びてるぞ。颯太並みにだらしない。」
「うそお。」
「ねぇ和ピーそれどういうこと?」
いっけね、と顔はとりあえず引き締める。それは去年の春。俺がまだ高1だった頃の話。
ある日、部活の練習中に怪我をした俺は、水道でとりあえず傷口を洗っていた。運悪く保健の先生が出張中で、保健室に行ってもまともな手当てはしてもらえないと思ったから、血さえ止まれば練習に戻るつもりだった。が、なかなか血が止まらない上にヒリヒリ痛み出して、どうしようかと思って焦っていたときだった。横から女の子が声を掛けてくれた。
『大丈夫ですか…?』
『えっ?』
『ほら、膝の…あっ、肘も…ほっぺたもすりむいてますよ。』
私ガーゼ持ってますから、と言ってその子は、初対面なのに俺の傷を器用に手当てしてくれた。最後に、ほっぺたの傷にポケモンの絆創膏を貼って、ふんわりと笑った。俺は心臓が跳ねた。
『はいっ、出来た!痛くないですか?』
『あ、うん、ありがとう!えーっと…。』
『えっ、あっ、いいです、私しょっちゅう怪我するんでそれで持ってただけですから…じゃあ。』
『あっ、ちょっ、君!』
これが、俺と長尾さんの出会い。いわゆる俺の『一目ぼれ』だった。