電話越しの君へ


バッと綾瀬を振り向くと、開きっぱなしのケータイが目に入った。



サッカー部に叫んだままの勢いで綾瀬に怒鳴る。



「お前も!!
グランドの真ん中でケータイいじってんじゃねぇよ!!」



叫んでから、しまったと思った。



ビクッと震え、ごめんと謝る綾瀬に、俺は何やってんだろうって思う。



綾瀬を
怖がらせたいんじゃない。



どっちかっつーと
危機に駆け付けたヒーローみたいに「大丈夫か?」なんて格好つけて言った方がまだマシだったんじゃないかと思う。



こんな状況で、俺、告白?



………できねっつの。
そんくらい格好つけさせろ。



もっとマシな状況で明日にでも仕切り直してやる。



傍にあったサッカーボールを思いっ切り蹴り上げて、軽く綾瀬を見遣る。



「………ちゃんと前見て歩け、バーカ」



そう言って俺はその場から歩きだす。



悪りぃな、綾瀬。



俺の地面すれすれのプライドが、告白は明日にしろって言ってんだ。



だから、あとちょっとだけ待ってて欲しい。



待っていてくれるなら、
俺は今度はもっとちゃんと呼び出して格好良く告ってやるから。



―――…そのとき、
右ポケットに入れていたケータイが微かに震えた。



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