電話越しの君へ


「………綾瀬?」



ほんの少し、声が震える。



『すきだよ、杉本……』



堪えてた気持ちを吐き出すかのように、綾瀬の声が切なげに耳に響いた。



その声に、その吐息に



俺のちっぽけなプライドも、自分に対するどうしようもない見栄も、全部全部打ち砕けた。



ゆっくりと、俺は振り向く。



頭じゃなくて、心が俺を動かす。



「……ばーか、
なに泣いてんだよ」



振り向けば、綾瀬のケータイを持つ手が微かに震えていた。



西日が彼女の頬を濡らしてゆく。



オレンジ色を吸い込んだ涙は、まるでこの世で1番の宝石のように。



『な、泣いてない……っ』



「泣いてんじゃん。
見えてるっつの」



そっと耳からケータイを離し、ぱたんと閉じた。



「杉本……」



綾瀬の声に引き寄せられたかのように、右足が自然と彼女へ向かってく。



まるで本能だ。



俺を動かすのは、いつも綾瀬。



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