電話越しの君へ


目の前にくると、
少し目を赤く染めた綾瀬が俺を見上げる。



「つーかさ、
お前が先にそれを言うなよ」



俺が先に言いたかったのに。



涙を制服の袖で拭ってやると、綾瀬はいやいやをして抵抗する。



可愛すぎる、俺の綾瀬。



「この前俺、言ったじゃん。今月中に告るって」



もちろんそれは、
紛れも無い、君に。



「……もう、
その子に告白したの?」



綾瀬の目に再度涙が浮かんでしまう前に、俺は息を吸い込む。



「………今から、告る」



真っ直ぐに見つめるは、
愛しい彼女。






「…………好きだ、綾瀬」






一陣の風が、
俺たちの間をすり抜けてゆく。



その風の香に確信した。



春は、もうすぐだ。



君と過ごせる春は、
もうすぐ近くまで来ている。



END.



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