オリオンの砂時計
★ ★
12月9~10日の早朝


12:57。
1階に、普通に降りていく。階段が軋むのは下から2段目と4段目。
そこもあえて抜かさずに、いつもテレビを見にいくのと同じように降りていく。
しばらく階下ですこし物音をたててみる。
冷蔵庫を開け閉めする。
パソコンの電源をONにして、ネットに繋げる。
パソコンデスクの前の椅子に座る。
きぃぃ……っと椅子のタイヤが鳴く。
マウスをクリックする。
リビングのドアを、微妙に力を入れて開けたり、閉めたり。
ライトのスイッチをつけたり、消したり。
玄関のポーチライトをつける。
階段の下から上の様子を探る。
研ぎ澄まされたこの耳、私の飛び抜けた聴力は天才的だ、どんな物音も聞き逃さない自信がある。寝返りをうつときのベッドの軋み。人が起きている気配も、多分聞きわけられるように思う。
起きている気配は、しない。
靴を片手に持って、ドアの鍵を最小限の音で開け、このとき自分はここまでしてお菓子を食いたいのだろうか、隠れて、ものすごい量を、別に飢餓状態でもないのに、という疑問とバカバカしさを瞬間感じ、外に出る。
冬の夜中だが、パジャマの上から厚手のコートを1枚、下はストッキングに膝丈のスカートで、全く寒さを感じない。
それは、1つのことに驚異的に集中しているからだ。
脱出成功。
鍵はかけずに歩き出す。
だんだん小走りになり、徐々にスピードをあげ、短距離走並みの速さで走る。
あるとき、遊びで「あなたに向いている職業占い」をネットで試したら、第一位が泥棒。
今思うと本気でその占いは恐ろしく当たってるんじゃないかと思う。実際、父のヘソクリの万札を引き出しから抜き、自分の家から誰にも気づかれずに脱け出しているのだ。これを他人の家でやったら立派な泥棒だ。まぁ自分の家でも泥棒にはかわりない。泥棒は捕まったらその後何年か完全に自由には暮らせないだろうし、それは時間の浪費だしつまらないから、スリルがあって私にはその適性も無くはないのだろうけど、他人の家に泥棒に入ろうとは思わない。別にそんなに大金を使う当てもないし、私が泥棒にならないのはそれが一般的に悪いこととされてるからじゃなくて、単に面白いかどうか、リスクはどんなものか、そのくらいしか考えていない。
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