中心のアイツ
「何で私の名前知ってるの?」

そう言ったら、彼女は懐かしむような、呆れたような顔をした。
 でもそんな顔をしたのは一瞬で、笑顔に戻った。

「飯坂君に聞きました。視線が痛いので彼女がいるの? と訊いたところいると答えられましたわ」

え………。は、恥ずかしすぎる……。そんな視線にばれてたなんて…。

 でも私はそんなに見てたわけじゃないから、他の女の方が多いな。 顔を赤くさせられる時点で、ツワモノと思われただろうから。

 他の女グッジョブ!! おかげで、色目使われずに済んだわ!
ニヤリと笑うと、それを見てたらしい繭が溜息をついた。

ムッ。何よぉ

むくれていたが、桐生さんの言葉で直ってしまった。

「顔を赤くして答えてらしたので、よほど松嶋さんのことが好きなんでしょうねぇ」

 こんな言葉で。

クスクスと上品に笑いながらこっち見る目には、羨望が混じっている気がした。
 


 この人も、何かを抱えているのだろうか。



少なからず、みんな何かを抱えていると思うけど、こんなたわいもない話の中で羨む事なんてないはずだ。
 大きな事情を抱えていなければ。

「あれ? 桐生さん。荷物は?」

誰かが、そんな言葉を投げかけた。確かに彼女は何も持っていない。
 初めてにしても、足りないだろう。いろいろ。

「あら?」

不思議そうに答えたのをみて、これは天然なんじゃないかと思う。
 普通気づくよ。カバンが無い事には。中身は別として。

そう思っていると、急に廊下が騒がしくなった。
 キャーキャーと。女子のこの甲高い声は嫌いです。

「おい美羅!! カバン持たせて忘れていくやつがあるか!!」

そう言って、顔立ちの整った切れ目で黒髪の男の子が入ってきた。

ん? あんな人、この学校にいたっけ?

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