ビター・キャラメル
パン屋兼喫茶店…じゃなくて、えーと、カフェ?
まあとにかくこじんまりとしたここ、『Dolce』のバイトを始めて約2年。
彼はあたしが始めた頃(もしくはもっと前)からの一応常連客である。
仲良くなったのはつい半年前くらい。
それまでは隅の方で憂いを帯びた面持ちで、ただ座っていたから、こんなイケメンだとも、明るい人だとも思わなかった。
でも、こうして話をするようになった今も、素性は謎。名前も、年齢もわからない。
店長の知り合いらしく、閉店ギリギリの誰も客がいない時、もしくは閉店後にふらーっと来て、最近はあたしと一緒に出ていく。非常に変な客である。
そのうえ客といっても、ほぼ毎日ここに来る割には、何かを注文することはあまり見受けられないあたり、なんのためにここに通っているのかもよくわからない。
「手伝ってくださいよー」
「おねーさん、俺は客です」
「ならお客さま、もう閉店の時間ですよー」
もう店内には誰もいない。
あたしが今コーヒーを溢したテーブルのお客が最後だった。
それもそのはず、現在9時55分。10時までのこの店は、あと5分で閉じるのだ。
「じゃあおねーさん、手伝うからアドレス教えてよ」
サングラスをとった彼がニヤニヤと笑って言った。