手の中の蝶々
帰ってきた。
あの家に。
玄関の前に立つ私は、膝に手をついて大きく息を吐いている。
遂に着いてしまったのだ。
先生の家に。
「……」
この前までなんの抵抗も無く出入りしていたと言うのに、何故か目の前のドアが自分の前に立ちはだかる大きな壁に思えて。
この心臓が落ち着きはしないものかと、深呼吸してみるものの、そんな事でおさまる心臓ではないらしく、合鍵を持つ手は震え、額にはじんわり汗をかく。
これはチャイムを鳴らすべきなのか、鍵で開けて入るべきなのか……。
そんな事ですら悩んでしまう。
「あぁ!もうっ」
しかし私の目的と、家の入り方なんて無関係で、悩む意味なんてない。
なのにウジウジと迷ってる自分に嫌気がさしてきて、私はがしがしと頭をかいた。
さっきまであんなに強気だったじゃない!
いっちょ前に託さんの助けを断って自分で来たんじゃない!
私は気合いを入れる意味で両手で顔を挟み、パンと音を立てて頬を叩いた。
そして少し震える手で鍵穴に鍵をさし、右に捻った。
するとカチャリと解錠された音が聞こえた。
…ここからが本当の勝負だ。