手の中の蝶々
ドアを開けた途端、そこはもう先生の空間で。
第一に匂いが、私に実感を与える。
明かりのついたリビング。
私はリビングに通じるドアを開け……
遂に先生がいるであろう場所に足を踏み入れた。
「………」
そこで目に入った光景は……
『やっぱ駄目だ…!』
思い詰めた様子の先生が机を叩いて立ち上がった瞬間で。
「…先生?」
感情高ぶっている表情の先生が、私を見た瞬間驚きの表情に変わる。
『…へ?な、なんで夂葉さんが…』
今にも走りだしそうだった先生の勢いは完全に無くなり、その場であたふたしている。
「なんでって…」
"なんで私がここにいるのか"
その問の答えは明確で。
私はそれを伝えるためにここにやってきた。
しかし現実で口は上手く動かないもので、
絶好のチャンスを前に、震えてしまう。
「…私は…!!」
沈黙を掻き消すように飛び出した私の声は、
「……せんせ…?」
先生の行動によって遮られてしまった。