手の中の蝶々
それによって、
聞こえたリズム。
ドキ、ドキ、
「………」
『ね?』
耳に直接感じるリズム。
それは、心地好いと言うには、はやすぎて激しすぎる。
先生も…ドキドキしてるんだ。
先生の鼓動は、私の機嫌を良くするには効果が有り過ぎるくらいで。
「へへっ」
思わず笑みが零れてしまう。
『夂葉さんの胸の音も聞いていい?』
「む、無理に決まってんでしょ…!」
体を離してニヤリと笑って、少し屈んで耳を近付けた先生の頭を、軽くしばいた。
『夂葉さん真っ赤』
「しょうがないでしょ…!」
そう言って私が先生から顔を背けた瞬間、気が付いてしまった。
「先生、あれ…」
私が指差すのは……
『あ…あははー…』
先生が目を逸らして苦笑いしてしまう程、たまった食器に、インスタント食品のゴミ。
それは、私がいなかった間の先生の生活を表しているようなもので。
でも、元々先生は一人暮らしだし、私がいなくなったからといってこんな悲惨な事にはならない筈。
「じゃあなんで……」
ならばどうしてこうなってしまったのか。
私の疑問は当然そこに向かった。