手の中の蝶々
『やっと帰った』
玄関からリビングへと繋がる通路にいる私と先生。
『乱暴…する?』
「し…っしない!」
壁に手をついて私に覆いかぶさる先生は、笑みを浮かべてどんどん私を追い詰める。
「やめ……」
顔を近付けてくる先生から少しでも離れようとして、私は壁を背にズルズルと座り込んでいってしまった。
お尻が床についてしまったところで、無くなる逃げ場。
『乱暴、したいだろ?』
「……っ!」
口調が、変わった。
そして、先生の口が私の唇の前まで来たときに、…キスされる。と思った。
でも……
『……駄目だ』
ピタリと動きを止めた先生はそう言って、私から離れた。
『やっぱりまた今度にしようか』
「何で…!!」
突然の事に思わず立ち上がって抗議してしまった。
そしてすぐに失態に気付く。
『そんなに俺とキスしたかったんだ』
俺、と言う口調も、私の唇に触れる手も、
全部私をドキドキさせる。
でも素直にはなれなくて。
「ち!違うもん馬鹿!!」
リビングに逃走。
『…良く我慢した俺』
「なんか言った?」
後ろから何か聞こえた気がして、振り向いたけど、先生は何もない、と首を振った。