贈る言葉
「以上で答辞は終わりだ。これより卒業証書授与式を閉式させていただく。在校生諸君、並びに教職員は会場を片付けてくれ。保護者の方々、卒業生諸君。お疲れ様、我らは退場するとしよう」
少年が壇上から飛び降りた瞬間、先の生徒とは違う歓声が上がり、賑わう。職員は、元凶を取り押さえようと走る。気分を害されたと喚く保護者。感化された生徒は少年の元へ向かう。
しかし少年は慣れた様子でそれらをかい潜り、椅子から腰を上げぬ者達の元へ歩み寄る。
「帰るぞ、凛。式は終わった」
「全くあんたは……」
頭が痛いとでも言いたそうに顔を歪める凛。
「くだらん時間を無駄に過ごすよりも優雅じゃないか」
「また規律を乱すようなことを……」
「くだらん権力に抑えられ過ごさせるよりも優雅じゃないか。それよりも、グズグズしてたら捕まるぞ」
呆れる凛の手を取り、子供のように走りだす哲哉。彼の瞳は無邪気に輝き、彼女の瞳は不安に曇っていた。
「おいおい、まさか置いて行く気じゃあないだろうな?」
「賢史どん!」
「まったく。お前は毎度、面倒を連れ込みやがって」
「退屈しなくて済むだろ?」
「あぁ、おかげであくびもしなくて済むよ。バカ野郎」
「まだまだ退屈させねぇから、まぁゆっくりして行ってくれ」
「ガキん時からそうだもんな。少しは成長しろよ」
「いかなる時も童心を忘れてはいかんのだよ。賢史くん」
彼の足取りは軽く、今日も我が道を突き進んで行く。
二人のお供を引きずりながら。