贈る言葉
「お~うぃ、哲哉~。遥ちゃん来てるぞ~」
「てつ……。忘れ物……」
声も姿も小さな少女を肩に乗せ歩く、大きな影。人が密集していてもなんのその。人垣をエレガントにかき分け――
「うぁっ!」
「ひでぶっ!」
「ちょっ、いでぃっ!」
エレガントにかき分け歩く。
「おぉ、どうした」
「これ……。答辞の台本」
小さな手から手渡された紙は、それはそれは大層綺麗に折りたたまれ、美しい字体で「なぜ俺が」と書かれていた。
「うわ、汚ねぇ紙だな。さすが風紀委員」
後ろから見下ろしていた尾形 賢史。209cm、98kg。毒づきながら大笑い。
「うるせぇ。それにいらねぇよ、こんなの。その場で考えてしゃべる」
「覚えられなかったの……?」
「ゔ……」
悪気なく年の変わらぬ兄の痛い所を突く、柊 遥。146cm、32kg。兄を見上げ、首を傾げる。
「ほら、遥。そろそろ時間だから、茜の所に戻りなよ」
「うん……。おが、お願い……」
「あ、おぉ。……逃げたな?」
「さてさて、なんの事だか……。ほら、おが。遥が遅れて入るようになっちまうから早く行ってやってくれ」
「あいよ」
少女を肩に乗せ歩く巨人は何を思い歩くのか。
「俺、卒業生だよな?」
「ん?」