美女と珍獣
「ミユキ、違う。俺……」
「じゃあこの状況は何だって言うのよ!? 誘拐したんでしょ、この子をーっ!」
どうやらさっき着ぐるみさんの言ってたミユキさんとはこの人のことらしい。
ミユキさんは、着ぐるみさんの胸ぐらをつかんで激しく揺さぶった。
よくわからないけど、その原因が自分だと気付いたあたしはとりあえず止めにはいることにした。
「あの、あたしその人に助けて貰っただけで……。誘拐じゃないんで離してあげて下さいっ!」
「あら、そうなの……?」
女の人はパッと手を離すと、あたしを見て笑った。
グロスが輝く唇が綺麗に弧を描いて、今更ながらミユキさんがとても美人なことに気付いた。
「ごめんなさいね、取り乱しちゃって。さっきトーマスが女の子を連れてたって通報があったから、ちょっと勘違いしちゃってたわ」
「…は、はぁ……?」
あたしはわかったのかわかってないのか判断しにくい曖昧な返事をした。
そんなあたしとぐったりとしている着ぐるみさんに構わず、ミユキさんは続けた。
「私はミユキ。この変人のことはトーマスって呼んでるわ。貴方は?」
「如月麻伽です……」
「麻伽ちゃんね」
そう言って笑顔で頷くミユキさんを、あたしは改めてまじまじと見つめた。
しっかりめに巻かれた茶髪に、濃いめの化粧がよく映える整った顔。
アレっぽい……。
キャバ嬢。
「ん?どうしたの?」
「あ、いえ!何でもないです」
そう答えると、今度はミユキさんがあたしを凝視してきた。
「麻伽ちゃん、カワイイわねぇ~。ウチの店に欲しいくらいよ!」
「み、店……?」
あたしが困惑した顔をすると、気にしないでと言って小さく笑った。
キレイな人だなぁ。
っていうか、店ってことはやっぱり……?
「ミユキ、仕事、いいの」
表情はわからないけど、どこか不服そうな声色で着ぐるみさんはそう言った。