美女と珍獣
「えっと、ありがとうございました」
「……うん?」
着ぐるみさんはまた首を傾げながらもそう答えた。
何のことだかわかっているようには見えなかったけど、それはそれでいいか、とあたしは口を噤んだ。
………。
沈黙。
「あの、名前……。トーマスさんって言うんですか?」
ミユキさんが言ってたことを思いだして、あたしはそう尋ねた。
「違う、けど、みんなそう呼ぶ」
「そうなんですか」
じゃああたしもそう呼んだ方が良いのかな?
そう思って彼を見遣ると彼もあたしの方を向いていた。
「アサカは、なんて、呼びたい?」
「え?」
何て呼びたいかなんて聞かれたのは初めてだったから、言葉に詰まる。
どうしよう。
トーマスって本名じゃないっていうし……。
あ。
あたしの脳内にひとつの言葉が浮かんだ。
「じゃあ、珍獣さんって呼びます!」
突然のあたしの提案に、?を浮かべる彼。
「チンジュー……ってなに?」
「珍しい動物のことです!」
へぇー…と声を漏らしながら彼は頷いた。
うん、珍獣さん。
なんかすごくぴったりだと思う。