美女と珍獣
「キャシーたち、のこと?」
どうやら今日の着ぐるみはキャシーという名前らしい。
あたしは無言で頷いた。
「それはねー…」
…………
………間。
彼は身じろぎもせず、あたしを見つめている。
なぜかとても緊張して、息苦しいような感覚を覚えた。
「それは、」
繰り返す彼に、頷いてその続きを促した。
「……ひみつ」
「え」
予想外の言葉に、よろけそうになった。
「はやく、家、帰ろう」
「ちょっ、待って下さいっ。
秘密って何ですか、言えないことなんですか!」
「うーるーさーいー」
「………」
着ぐるみの耳部分に両手をあてて首を横に振られると、口を噤むしかなくなった。
「アサカには、言わないの」
ぼそっと呟くようなか細い声でそう言った珍獣さんを、目を丸くして見つめた。
あたしには、言わない?
「…わかりました。もう聞かないです」
そう言うと、再び何事もなかったかのように歩き始める珍獣さん。
あたしはというと、訳の分からない淋しさに俯いていた。