美女と珍獣
♪~
為されるがままになっていると、あたしの携帯の聞き慣れた着信音が鳴った。
「あ、あたしの携帯鳴ってます。
ってことで、離して下さい珍獣さん!」
「えー……」
不満そうな態度ながらも腕の力を緩めてくれた彼から離れ、部屋を出て携帯を開いた。
画面には、二日ぶりに見る美奈の名前。
「?」
何だろう、と思いながら電話に出た。
『あ、麻伽?あたしだけど』
「わかるよ、どうしたの?」
壁に背をもたれて美奈の声を聞く。
廊下は寒いなー、なんて悠長なことを考えていた。
よく考えたら、美奈からの電話の内容なんてすぐに予想つくようなことなのに。
『あたしさ、明日帰ってくるから』
「え……」
あまりに突然の美奈の言葉に、あたしは大きく目を見開いた。
明日、帰って来る?
「………っ、」
―バッ
あたしは咄嗟に部屋の前から離れた。
美奈が帰ってくるってことは、あたしがここにいる理由がなくなるっていうこと。
聞かれたくない、と思った。
ドアの向こうの珍獣さんに。
『え、とは何よ。失礼ねぇ!それで……』
「あ、美奈……、」
淡々と話を進めようとする美奈に、なぜかどうしようもない焦りを感じて小さく声を漏らす。
弱々しい声。
『……どうしたのよ、アンタ』
訝しげな美奈の声。
足先が凍えそう。
綺麗すぎるフローリングの床は、朝夕はとても冷たくて。
声が、震えて。
この冷たさは今のあたしの心と比例しているんじゃないかと、思った。