美女と珍獣
一瞬の出来事。
気がつけば、あたしは彼の腕の中にいた。
「珍獣、さん…?」
「…………」
すっぽりと抱え込むように回された腕に、動揺を隠せずに名前を呼ぶ。
あたしの部屋のときみたいにふざけた感じじゃなくて。
まるで、何か大切なものを包み込むかのような抱きしめられ方に、緊張してしまう。
どうして、こんな状況に?
珍獣さんの胸板に押し付けられるような形になっていた顔を、ゆっくりと上げた。
ふと、着ぐるみの間から見えた彼の首筋。
かかる髪の毛の色は、
綺麗な金色。
「アサカ」
その髪の綺麗さに見とれていたあたしは、呼ばれたことで一瞬びくりと体を強ばらせた。
「ど、どうしたんですか珍獣さん」
「……いやだ」
「え?」
何が嫌なのか尋ねようとすると、ゆっくりと離される体。
「……ん、ごめん」
決まり悪そうに下を向きながらそう呟いた彼は、そのまま自室へと歩いていった。
紅潮した頬が冷めることを知らない。
何を思って珍獣さんはあたしを抱きしめたの?
何で、どうして。
こんなに泣きそうな気持ちになるんだろう。
珍獣さんの体温がまだリアルに残っていて、あたしは滲む視界を隠すように手で覆った。