美女と珍獣
「あの、珍獣さん」
思い立って、あたしは珍獣さんの背中に声をかけた。
ゆっくりと振り返る彼。
自分の声が震えてないか、心配になる。
「なに、アサカ」
あたしは小さく息を吸い、拳をぎゅっと握った。
緊張と闘いながら言葉を紡ぐ。
「今日、友達から電話があって…っ」
あたしがちょっと大きな声でそう言うと、珍獣さんは頷いた。
相変わらずその表情を伺うことはできない。
それが少し悲しいと思った。
「それで?」
「その子、今まで遠くに旅行に行ってて…。明日帰ってくるから、って」
躊躇いがちにそう言うと、その続きを珍獣さんが口にした。
「…じゃあ。
アサカ、ここ、出る?」
淡々とした物言い。
だからこそ悲しんでいるようにも、何とも思ってないようにも見える。
あたしは、寂しいんですよ。
そうは言えずにあたしは下を向く。
珍獣さんはずっと黙っていた。
「はい。今までありがとうございました」
これでいいんだ。
思い上がるな、あたしはただの居候。
引き留めてくれるはずなんて、ない。