美女と珍獣
そのとき。
――ドンッ
「っきゃ……!」
あろうことか、あたしは顔面から何者かにぶつかった。
顔が痛くて蹲ると、見えるのは黒いスーツの足下と革靴。
「あぁ?……んだよ、ソイツ」
あたしを追いかけてきたヤンキー達が、その人を見て呆けたような顔をした。
何事……?
そう思って目の前の人物を見上げるけど、逆光で見えにくい。
涙目になっているのもあって、視界が霞んで見えなかった。
――ぐいっ
突然引き寄せられた体。
「!?」
この得体の知れない人物に抱きかかえられていると悟ったあたしは、落としてしまわないようにぎゅっと荷物を抱き寄せた。
「な、何だよテメェ。ふざけてんのか!」
あたしを抱きかかえている人物に向かって、ヤンキーが慌てて啖呵を切る。
だけど何かぎこちなく、戸惑っているように聞こえるその声。
「ちょ、……きゃっ!」
その人はヤンキーには目もくれず、そのまま一目散に駆けだした。
ヤンキーはただ目を丸くしてそれを見つめているだけだった。
どうして急に大人しくなったんだろう?
そう思ってあたしを助けてくれたらしい人物の顔を見るべく、視線を上げると。
「……!?」
あたしの目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。