美女と珍獣



「き、きぐるみ……?」



ピタ、とその人の動きが止まった。

追っ手がいないことを確認すると、あたしをゆっくりと地面に下ろしてくれた。



「あ、ありがとうございます……」


そう言って、再度顔を上げると。


……やっぱり見間違いなんかじゃない。

意図は全然わからないけど、その人は首から上にすっぽりと着ぐるみを被っていた。


しかも、ウサギとかクマとかよくあるやつじゃなくて。

なんだか見たこともない動物の。


しっかりと着こなしたスーツと着ぐるみが、なんともミスマッチ。




「あの、ソレ……」


恐る恐る着ぐるみを指さすと、その人は小さく呟いた。



「ジェニファー」

「ジェ、ジェニファー?」



な、名前?

あたしはどうにも変わったこの人に、どうしたら良いのかわからず首をひねった。


見るからに怪しいけど。

でもあたしのこと助けてくれたし。


あたしと彼の間にしばらくの間沈黙が流れた。



「じゃあ、俺、帰る……」



そう言って立ち去ろうとした彼を、あたしは黙って見送る……

……つもりだった。



「……な、ないっ!!!」


がさがさと鞄を漁るあたし。


だけど、無い。





――財布が!!


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