年下の彼氏
「…す…き…。」
ふと出た言葉にびっくりして菜月は口を手で塞いだ。
涙が今まで泣かなかった分を補うようにぼろぼろと出てくる。
頬をつたる、しょっぱい水はクーラーで少し乾燥された菜月の肌にとってはくすぐったい。
孝之くんはどんな顔をしてるんだろうとその涙目を上に向けた。
ぼやけて見える彼は下を向いて茶色い髪のせいで顔がよく見えない。
下に目をやった途端、菜月は一瞬言葉を失った。
彼の手には菜月が今持っている本の最終巻がしっかりと握られていた。
遠くから夏の知らせの声が2人の耳に届く。
時が止まった気がした。
「俺達さ、運命だと思わねぇ?」
孝之くんは握られた本を顔の前に見せて本の隣からひょこっと顔を出した。
あの優しい笑顔で。
菜月は逆光で色がよく分からない彼をじっとまんまるの目で見つめていた。
それって……?
「あたし…。」
口を狭い金魚ばちに入れられたデメキンのようにぱくぱくさせた。
孝之くんはまた優しく笑った。