年下の彼氏
「俺はさ、一目惚れとか絶対にねぇと思ってた。でも菜月さんのことが忘れられねぇんだ。あの時から…。」




あの時って、あのキス……?!

また涙が出てきて無意識に一回鼻をすすった。

これは夢なの…?
と思わせるような涙による景色のぼやけ方。

そもそも惚れっぽいあたしがこんなに一人の人を想うことが出来た。

それってすごいこと。

口が少し開いていたことに気付いてすぐに口を閉じた。



「最初はこの気持ちは嘘だと思ったんだ。でもこの気持ちは本当だ。本当でしかない。菜月さんのことが好きで好きでたまらねぇ。」



好きで好きでたまらねぇ…?

そんなこと、今まで言われたことがあったかな。

一度伐採された古い木の年輪がまたそこから芽を出してたくましく生きていくような、そんな深い茶色い瞳。

それは本当にあたしに向けられている。

こんなあたしに向けられている。


「あたし…も…。好きで好きでたまらないよ〜。」

その言葉を聞くか聞かないかの境目ぐらいで彼の温かさを感じた。



< 85 / 86 >

この作品をシェア

pagetop