リリック・ラック
「私……」
「え?」
ずっと黙っていた沙綾が、怖ず怖ずと口を開いた。
「私、デート断る」
「は?」
キッパリと言い放った沙綾の言葉に、あたしは怪訝な視線を返した。
何を言い出すんだろう。
嫌な予感があたしの頭を過ぎる。
「柚が好きな人を、盗れないよ……。だから断る」
あたしの胸の中には、モヤモヤと払い落とせない感情が沸き上がる。
「それって、あたしに恵を譲るってこと?」
「ち、違うよ。そんなんじゃなくって……」
「違わないよ」
本当は分かってる。
あたしが沙綾を失うのが不安なように、沙綾もあたしを失いたくないんだって。
だけどあたしは沙綾を親友だと思ってるから。
だからこそ、そんな遠慮なんかされたくなかった。