リリック・ラック
どうしよう。
イライラする。
吐き気がしそうなくらい、心臓がドクンドクンと大きく胸を打つ。
そんなあたしの胸中を知ってか知らずか、沙綾は残酷な言葉を呟いた。
「私は柚が居れば良いの。若狭君は要らない」
ぷつりと、あたしの中で何かが切れた。
それと同時に鳴り響いたのは、パシンという乾いた音。
その音であたしは、あたしが沙綾を叩いたのだと気づいた。
動けば切れてしまいそうな鋭い静寂があたし達二人を硬直させる。
沙綾の絹のような頬をあたしは叩いてしまった。
だけど謝る気にはなれない。
あたしだけじゃなく、恵も侮辱するような言葉。
悪気がなかったにしても、あたしは許すことができなかった。