リリック・ラック

気づけば涙が溢れていた。


「柚、どうして……?」

「沙綾は分かってない。何てことない言葉で、人が傷つくこともあるんだよ」


合点がいかないようで、沙綾は眉間にシワを寄せる。
その瞳はうっすらと水を湛えているようにも見えた。


「恵んで貰ったって嬉しくない。あたし、そんなに可哀相?」


普段とは違う強い口調に、沙綾が戸惑っているのが分かる。

だけどあたしの口は止まらなかった。


「恵のことだって、まるでモノみたいに言わないで。恵の気持ちもちゃんと考えてあげて」


一気に吐き出して、少し呼吸が荒くなる。

あたしは鞄を引ったくるように持って、バタバタと教室を出た。


「柚!」


沙綾の呼び止める声を振り切るように、放課後の廊下を駆け抜けた。
< 104 / 142 >

この作品をシェア

pagetop