リリック・ラック

あたしがおどけてそう言うと、麗ちゃんはわざとらしく大きくため息をついた。


「どこが。最悪だろ」

「なんでよ。あたしのピンチにいつも現れるじゃん」


麗ちゃんはじっとあたしをみつめる。
長めの銀色の前髪の隙間から、冷ややかだけど綺麗な麗ちゃんの瞳が覗いていた。


「今ピンチなんだ?」


麗ちゃんは不意にあたしの目尻に触れる。
拭いきれなかった涙が麗ちゃんの指先に乗った。


「さっき……」

「うん」

「沙綾と……」

「うん」


……だめ。
話したらまた泣いてしまいそうになる。

言葉に詰まってしまったあたしの頭を、ぽんぽんと優しくたたく感触。

見上げると、あたしの頭に手を乗せて、この上なく優しく微笑む麗ちゃん。
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