リリック・ラック

色あせたタンクトップに紺色のジャージを履いたワカメが、ポケットに両手を突っ込んで歩いて来る。

これがもし沙綾からの呼び出しだったなら、ワカメはもう少しマシな格好で出てきただろう。


「あんた、あたしのこと女だと思ってないでしょ」

「今更」


あたしはよれたタンクトップ越しにワカメの腹にパンチする。


「ぐえっ。てめぇこのチビ」

「うるさい、乾燥ワカメ」


こんな憎まれ口を叩けるのも、腐れ縁のあたしの特権。

それは分かってるんだけど。


「ちょっとは沙綾を見習えよ」


こんな些細な一言でも、ツキンと胸が痛む。

あたしは弱い。
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