リリック・ラック
夏の夜は湿気ばかり多くて風が少ない。
だけどわずかにやって来た生温い風が、ワカメの前髪を揺らした。
「気持ちは変わらない」
その言葉と同時に一瞬ちらりと覗いたワカメの目が、ひどく真っ直ぐで。
あたしは思わず目が離せなくなる。
「……なら、なりふり構わずぶつかってみれば良い。それでアンタが"大事な人"になれば良いじゃん」
風がぴたりと止み、暑さを感じたあたしはブランコを小さくこぎ始める。
ワカメのマンションの窓の光が、一つ二つと消え始めるのが見えた。
「……偉そうに言いやがって」
キイキイと細く鳴くブランコ。
その鳴き声の向こうで、ワカメの声が遠くに聞こえた。
「ありがとな」
ワカメは薄く微笑んだ。