リリック・ラック
あたしはブランコを止めて、立ち上がった。
どちらからともなく、ブランコを離れて公園を出る。
「送るか?」というワカメの申し出にあたしは首を横に振った。
普段は犬扱いしかしないくせに、不意に気遣われたりされると困る。
こういう優しさや根が真面目なことを知っているから、あたしはきっとワカメを好きなんだろうけど。
ワカメのマンションの前でいくつか他愛ない言葉を交わして、あたし達は別れた。
一つ目の角を曲がる直前、振り返るとワカメはまだマンションの前で見送ってくれていた。
ほんとムカつくけど、やっぱり優しいんだ。
「……いつか、アンタがもっとめげそうな時がきたら」
夜の路地にあたしの声だけが鮮明に響く。
「沙綾の大事な人、教えてあげる」