リリック・ラック
沈黙が続く。
自分の行動の愚かさを、無言で責められているような気がしていたたまれない。
電話の向こうで、麗ちゃんの長いため息が聞こえた。
「ごめんね、麗ちゃん」
あたしは勝手に麗ちゃんを巻き込んでしまったことを後悔した。
沙綾があたしのことを気にしないで居られるようにする方法は、他にもあったかもしれないのに。
『しょうがねぇな。やってやる』
「麗ちゃん……」
その代わり、と麗ちゃんは付け足した。
『バレて怒られたらカラオケおごれよな』
冗談ぽく言う麗ちゃんに、あたしの胸につかえていた鉛みたいな感情は、すぅっと溶けていった。
「任せてよ。約束する」
あたしは努めて明るく答える。
夕暮れの町並みに、しっとりとした夜が滲んでいく。
今日がもうすぐ終わる。
あたしと麗ちゃんのニセモノカップルが、この瞬間からスタートした。