リリック・ラック
そんないい加減な気持ちで、沙綾に手を出すのなら許せない。
「沙綾のこと、都合良く扱わないでよ」
少しきつめにあたしが言うと、恵はふっと黙る。
少しの間があった後、恵はぽつりと呟いた。
「結構、マジ」
「え?」
隣を歩いていた恵の、あたしより高い位置にある目を覗き込む。
真っ直ぐに視線が合って、恵はさらに続けた。
「好きに、なるかもしれない」
周りの音が一瞬消えて、恵の声がやけに響いた。
すっかり日が暮れた後の薄暗い街路でも、十分に見てとれる。
恵の目はとても真剣だった。