リリック・ラック
テニスコートに到着すると、沙綾はすでにスタンバイしていた。
あたし達に気づいた沙綾は、天女のごとく眩しい笑顔でヒラヒラと手を振る。
あたしもそれに応えるように手を振り、笑顔を返した。
不意に、隣の恵が妙に静かなのに気づき目をやると。
柄にもなく赤らめた頬と、求めるような眼差し。
そんなふうに女の子を見つめる恵なんて初めて見た。
あたしのことは、一度もそんな目で見たことなんて無いのに。
そんな言葉が頭を過ぎった瞬間、思わず顔がパッと上気した。
あたし、今、何を考えた?
馬鹿じゃないの。
有り得ない。
振り払うように、あたしはコートに視線を戻した。