リリック・ラック

「さっきの賭けの分」


恵は言った。
あたしは恵の背中を見つめる。


「俺に付き添いの役、譲ってくれ」


あたしの記憶では、だけれど。

恵は彼女が風邪を引いても、お見舞いに行ったり、まして看病なんかしたこともない。

それなのに、わざわざあたしに頼んでまで、その役を引き受けるなんて。

なんだか、ビックリだ。


あたしは一つ息を吸って、極力明るく答える。


「……いや、沙綾はあたしが看るよ。賭けの分はさ、学食とか、ジュースとか、奢るからさ」

「ポチ」

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