リリック・ラック
・知りたくなかった
「今、何て言ったの?」
久しぶりに沙綾と街に出かけた週末。
最近出来たカフェでハニーオレンジティーを啜りながら、あたしは聞いた。
ロイヤルミルクティーをくるくるかきまぜながら、少し俯く沙綾の頬はわずかに赤らんでいる。
繊細なレースが胸元にあしらわれた白のワンピースが、とってもお似合い。
「好きに、なるかもしれないって、言ったの」
「誰が、誰を?」
勘弁して、と言いたげにきゅっと目をつむる沙綾。
「私が、若狭君を……」
グラスの中でカランと氷が音を立てた。
好きって、本当に?
沙綾がワカメを好きになっちゃうってこと?
ハニーオレンジティーの入ったグラスが、しっとりと汗をかいていく。