リリック・ラック
「それ、ワカメには言ったの?」
あたしが聞くと、沙綾はとんでもない!とばかりに首を振る。
「い、言えない。まだ分からないし、それに」
「それに?」
若干被せるようにあたしは沙綾を促した。
沙綾は少し言いにくそうに口ごもるけど、あたしは真っすぐに沙綾を見る。
「それに……若狭君にこんなこと言ったら、きっと迷惑だから」
迷惑なわけなんかない。
むしろ喜びで狂っちゃうんじゃないかと思う。
だけどあたしは何も言わなかった。
「若狭君、好きな人とか居るのかな……?」
沙綾に遠慮がちにそう聞かれて、あたしは。
「……さぁ、どうなんだろうね」
ワカメが好きなのは沙綾だよって、言ってあげれば良いのに。
できなかった。