リリック・ラック
なんでそんなこと教えなきゃならないの。
沙綾とのデートに思いを膨らませて、嬉々としたワカメの顔が憎らしくて堪らない。
「自分で考えなきゃ、意味ないじゃん」
「そうなんだけどさ、やっぱポチは沙綾のこと良く知ってるじゃねえか」
やっとのことで絞り出したあたしの返答を、落ち葉を払うみたいにひらりと返す。
履きなれたスニーカーが、なんだか今日は重い。
「もしデートが上手くいったら、告るつもりなんだ」
うっかり聞き流してしまいそうなくらい自然に、ワカメは言った。
「……え?」
「だから、失敗できねぇんだ。頼むよ、ポチ」
あたしの耳にはもう、ワカメの声は入って来なかった。