リリック・ラック

「ごめんなさい。二人きりって不安だから……」

「体育祭の日は二人で楽しそうに帰ってたじゃない」


そう言った所でハッとする。二人を目撃したこと、沙綾には言ってなかったんだ。


「その、あれはデートとかじゃないし……」


困ったように眉を下げる沙綾。

分かってる。
沙綾は悪くないって。

だけどあの体育祭のあと、二人を見てあたしがどんな気持ちになったか沙綾は知らない。

ワカメを意識し始めた途端、二人じゃ嫌だから着いて来いなんて言われたあたしの気持ちを沙綾は知らない。

ふつふつと起こる、居心地の悪い感情。


放っておいて欲しいのに、どうしてあたしを巻き込むの。

それもこんな、惨めな役まわりで。
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