恋に落ちた彼と彼女の話
放課後、幼なじみの彼が後ろで席を立つ気配がした。
背中から声がかかる。
「おい、帰るぞ。」
うん、と返事をして立ち上がった。
彼と歩く帰り道が、私は大好きで大嫌いだ。
彼はいつも誰よりも近くにいて、いつも誰よりも遠くにいた。
隣に並んでいるはずなのに、私のことなんか見向きもしなくて、いつも私の一歩先を歩いてるみたいだった。
私を見て!!
叫ぶことができたらどんなに楽になれるだろう。
でも実際にはそんなことできなくて、ただ彼に遅れないように隣を歩くだけ。
今日も、いつもと同じ大嫌いな帰り道だった。
彼が口を開くまでは。
「明日、部活で天体観測するんだ。お前も見に来ねぇか?」
「……え??」
「だから、天体観測すんだよ。お前も来いって。」
私はその場に立ち止まって目を見開いた。
嬉しかった。彼が私を誘ってくれたことが。
彼の目に少しでも私が映っていたことが。
その日は、幸せな気分のまま彼と翌日の約束をして帰路についた。