恋に落ちた彼と彼女の話
夢中
暗い暗い闇の中、私は出口を探して歩き回っていた。
もう随分長いこと歩いているはずなのに、その空間には出口も壁も見つからなくて
どうしようもなく不安になった。
夢、なんだと思う。肌に感じる寒さは妙にリアルだが。
「――――」
急に、小さく、切ないような、愛しいような、そんな声が聞こえた。
驚いて顔を上げると、小さな、本当に微かな光がそこにあった。
引き寄せられるようにその光に手を伸ばすと、突然現れた腕に手首を捕まれた。
不思議と、恐怖は感じなかった。
私の見知った人物の温もりによく似ていたから。
ふいに、鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなった。
光の向こうにいるのであろう人物に顔を見られないよう俯いて、腕を握り返すと
ふん、と鼻で笑われた気がした。
「泣いてんじゃねぇよ、馬鹿」
そう言いながら、腕は私を優しく光の中へと引き上げた。
end.
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