恋に落ちた彼と彼女の話
02 幼馴染の場合
幼なじみと待ち合わせをしていた喫茶店へ行くと
めずらしく彼女の方が先に店についていた。
彼女は小さな画集のようなものをよんでいるようだった。
少し淋しげなその風景画を眺める彼女の横顔は儚くて
今にも消えてしまいそうだった。
「めずらしいもの読んでるな。」
「…あ、おはよー。これはね、お兄ちゃんにもらったの。」
俺はへぇ、と言いながら彼女の隣に腰を下ろした。
あいつもたまにはいいもん選ぶんだな
と彼女の兄に少しだけ感謝をしながら。
生クリームが大量にのったケーキを幸せそうにつつく彼女を見ながら
ふぅ、と溜め息を吐いた。
彼女には自分には大事にされる資格がないと思い込んでいる節がある。
少々強情な性格をしているのも本心を隠すためだったりする。
だから、甘味を前にした時の彼女の子供らしい表情は好きだ。
正直言って、可愛い。
緩みそうになる頬を抑えるのが大変なくらい、可愛い。
今も口の周りをべたべたにしているこの彼女には
最近気になる奴がいるらしい。
本人は無自覚のようだが。
奴というのは俺たちの担任の数学教師で
端正な顔立ちをしているため、とにかく女子生徒にモテる。
そいつは彼女の容姿に偏見を持たない大人の一人だから
彼女が惹かれるのも無理はないのだろう。
まぁ、本音を言えばぶっ潰してやりたいところだが
彼女の悲しむ顔は見たくないので
今のところはやめておいてやろうと思う。
→03 彼の場合