恋に落ちた彼と彼女の話
03 彼の場合
1年前の入学式の日の朝
俺はほとんど自室と化している数学準備室で煙草をふかしていた。
何気なく中庭を見下ろすと
いつもは誰もいないはずのそこに
陽の光をキラキラと反射している白い人影があった。
一瞬、天使が舞い降りてきたのかと本気で思った。
しかし、よく見ると人影はこの学校の制服を着ていた。
白く長い髪は少女のそれなのだろう。
不安そうにあたりをキョロキョロと見まわしていた少女が
突然、くるりと振り返った。
目が合った、と思ったのは一瞬だった。
遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえたかと思うと
少女はぱっ、と安堵したような表情を浮かべてそちらへ走っていった。
白い肌の中で、大きく輝いていた、紅。
その紅い紅い、ガラス玉をはめこんだような瞳を
俺は忘れることができなかった。
→彼女の場合2