恋に落ちた彼と彼女の話
04 彼女の場合2
昼休み、先生に声をかけられて
放課後に準備室へくるように、と言われた。
というわけで私は今、準備室へ向かっている。
私、何か悪いことでもしたのかな、と思いながらドアを開けると
こちらに背を向けてプリントの採点をしていた先生に「適当に座ってくれ。」と言われた。
目の前にあった古ぼけた椅子に座りながら、ぼぉ、と先生の背中を眺めていたら
カタン、と音を立てながら先生が立ちあがって
私の向かいの同じく古ぼけたソファに座った。
胸ポケットから煙草を取り出して、ライターで火をつけ、口元に運ぶ。
そんな流れるような先生の指の動きを、とても綺麗だと思った。
できれば煙草を吸うこの横顔をずっと見ていたい、とも。
だけど
「先生、ここ禁煙。」
と茶化すように言ってみた。だって煙たいんだもの。
すると先生は小さくあぁ、と呟いて
「悪ぃな、これだけ吸わせてくれ。」
と言って窓際へ向かった。
あー、まじめだなぁ。
じぃ、と先生の後ろ姿を眺めていたら、小さな違和感に気づいた。
…あれ?さっき私、何考えてた?
先生の指が綺麗だとか、横顔をずっと見てたいとか…
そこまで思い出すと、急に心臓がドクンと高鳴って、顔が熱くなった。
戻ってきた先生に「おい、大丈夫か?顔赤いぞ。」と言われて顔を近づけられたら
心臓がもっと早く脈打って、バクバクという自分の心音しか聞こえなくなった。
その後のことはよく覚えていない。
先生の話は頭に入らなくて
家に帰ってからも心臓は治まってくれなくて
ただ、今日の話をもう一度確認するために
明日も先生に話しかけることができるのが、妙にうれしかった。
end.
→忘れられない月夜