本気になっちゃいけない

確かに あの頃の私は幸せ過ぎて 浮き足だっていた
周りなんて 全然見えてなかった

でも あんなことがやって来るなんて…

誰が想像できただろう


もう春になろうかと言う 花冷えのする肌寒い 3月の終わり

夜勤明けで
「忙しかったねぇ」
なんて夜勤の相方だった後輩と話ながら 更衣室に向かう途中
外来の前で

「あのぅ 槇原さん」
呼び止められた

振り返ると 髪の長い 可愛らしい女性が立っていた

誰?見覚えがない

「槇原さんですよね…」

「そうですけどあなたは?」

「初めまして 私ここの外科の田代の娘です」

揺ったりとした口調で話しかけられていたけど 私を真っ直ぐ見るその視線に 真の強さを感じた

「田代先生の娘さん…」

田代先生はここの外科部長で 黒澤の上司だ
何でその娘さんが…

「いつもお世話になっています でもなんで私に?」

「あのぅお時間ありませんか?ちょっと槇原さんとお話がしたいんですけど」

彼女は真っ直ぐ私を見ている
何故か 怖い感じがした

「じゃ着替えてきますから玄関で」
と私は足早に更衣室へ向かった

すごく嫌な感じがした
あの彼女の目を見ていたら
何となく…



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