今日から始める魔王伝
プロローグ
「はぁ、はぁ」
俺達は肩で息をしていた。
しかし目の前の人物からは一瞬たりとも目を離さない。
「どうして……
どうして理解してくれないのだ!? 」
俺達の目の前の人物、魔王はボロボロになり片膝地に付きながら叫ぶ。
その叫び声は深い哀しみの様なものが感じられた。
「お前の考えなど理解出来る訳無いだろ!!
人々を傷付けるだけの存在の考えなんてな! 」
「違う!
我は魔物に人を襲わせてなど無いっ!! 」
悲痛な声で魔王が叫ぶ。
「暴走した魔物が勝手に人を襲ったのだ。
我は人々の為に魔物を統制していただけだっ!! 」
「黙れっ! 嘘をつくなっ!! 」
俺達のリーダー、勇者が剣先を魔王に向ける。
「これで終わりだ魔王!! 」
勇者が剣を振り上げ魔王に走り寄る。
魔王も最後の力を振り絞るが、体のダメージが大き過ぎて立ち上がれない。
「ぐぁっ!?
な、何故だ…我はただ……
ただ人々の為に…」
勇者の剣に腹部を貫かれた魔王はそう呟き動かなくなった。
「勝った……」
地に臥し動かなくなった魔王を見て勇者は呟く。
「勝ったぞぉぉお――!! 」
「「「うおぉぉ――! 」」」
勇者と俺以外のパーティーメンバーが喜び叫ぶなか、俺は何故か素直に喜べなかった。
何故なら魔王が言った言葉が、小さな棘の様に引っ掛かったからである。
俺はもう何も語らない魔王の亡骸をから紅の血が広がっていくのを静かに眺めていた。