ひねもす月
その中に、白く、淡い丸がポツンとあった。

溶けてしまいそうな儚さに惹かれて見れば、それはなぜかミナの絵によくいる、くらげ。
サイン、のようなものなのだろう。
この海の絵にこそ馴染んでいるものの、それは、人物画でも風景画でも、片隅に必ず描かれていた。


「ミナは一番どの魚が気に入ってるの?」


言ってから、無粋な質問かな、と思った。
芸術音痴を暴露しているようなものだ。


「…………それ?」


しかしミナは、ちょっと考えた素振りのあと、ニコニコと嬉しそうな顔で小さめの二匹の魚を指差した。

似たような色合いで、追いかけっこでもしているかのような、小魚。


「…………もしかして……きょうだい?」


「おにいちゃん」


少し大きめの方。
大きく頷き、この上なく幸せそうにカナタを見る。


「……そっか。じゃあ、こっちはミナだ」


三ヶ月前、ミナに初めて「おにいちゃん」と呼ばれた時、カナタはどうしていいのかわからなかった。
突然抱きついて泣き続けたミナに、ただただ驚いて、立ち尽くすのみ。


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