ひねもす月
「何かいた?」


一本の木の根本にしゃがみ込む姿を見つけ近寄ると、ミナはビシッと一点を指差した。


「あぁ……。可哀相に……」


そこにいたのは一匹のカブトムシ。
闘いに敗れ、果てたのか、鳥にでも襲われたのか。
立派なツノをもった王者は、無惨にも、艶やかな甲殻の半分を失い、ピクリとも動かなくなっていた。


「これは捕まえちゃダメ。もう死んじゃったんだ。
…………埋めてあげなきゃね」


やっと見つけた、とばかりに得意気だった顔に、不満の色が走る。


なぜだろう。

カナタには不思議で仕方ない。

ミナは……本当ならば誰よりも過敏なはずなのに……なぜか、生死の感覚に疎い。
道端で干からびて見目のすっかり変わった蛙なら、区別できるのに。なのに、それなりに元の姿を留めていると、途端にわからなくなる。

虫採りの初日には、落ちていたセミの死骸を虫かごに山ほど詰めていた。
そのあまりのグロテスクさにカナタは貧血を起こしかけたものだ。

……それに比べれば、薄羽の見えたカブトムシの一匹くらい……。



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