ひねもす月
羽化したての蝉は、まだ、透き通るように淡くて頼りない。
なのに、煌めくほど神秘的で……。


ミーンミーンミーン
ジーワジーワジーワ


葉陰の涼しげな光に照らされた姿は、先輩蝉たちのコーラスをバックに、まるで、舞台上唯一無二のヒロインのようだ。

羽が……、微かに、伸びた。


「……………あれ?」


どれほどの時をそうして過ごしていたのか。
我に返って、あたりを見回す。


「ミナ?」


いない。

見渡す限り、どこにも。


「ミナ!?」


慌てて、叫ぶ。

どこに行ってしまったのか。
迂闊な自分が恨めしい。


「ミナ!!」


名前を呼びながら、雑木林の中を駆ける。
大して広くない林は、きっとカナタの声を届けてくれるはずだ。


なんで、目を離したのだろう。
いくら神秘的な瞬間とはいえ、蝉ごときとミナ、どっちが大切かなんて決まっているのに。


散々に自身を罵倒しながら、かわいい妹の姿を探す。
先に昨日の仕掛けに向かったのかもしれない。
でも、もしかしたら、この林をすでに出て行ったかも……。

嫌な可能性が、望みもしない脳裏に渦巻いた。



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