ひねもす月

「満月だね」


白く浮かび上がった、真昼の月。

その言葉に、ようやくミナが、振り返る。


なぜか、不思議そうな顔。


「夜のお月様は明るいけど、太陽ほどじゃないよね?だから、昼間に出て来ちゃったお月様は、お日様に負けて、ちょっとしか見えないんだ。
ああやって、こっそり、夜の出番を待ってるんだよ」


月の公転とか、地球の自転とか。
難しいことはミナにはわからない。それに。
そんな説明、彼女は望んでない気がした。


「ちゃんと見たのなんて、久しぶりだ」


カナタは、ほんわりと温かな気持ちで微笑んだ。


「きれいだね。
好きなの?」


うん。

そう聞こえた気がした。

ミナは、こくこくと小さく首を縦に振りながら、また、月をじっと見上げている。

黒髪を無造作に垂らしたその姿は、なんだか、ここではないどこかを見ているようで……。


「あ!そうだ!!」


月に還って行ってしまいそうな横顔に不安を覚えたその時、ミナを引き戻す強い鎖があることを思い出した。


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